Interview
ほり デザイントースト創業者・チーフメンター
武蔵野美術大学卒。都内制作会社を中心に8年程グラフィック・Webデザイナーとして勤務。渋谷大規模広告・NYマンハッタン電子広告等、国内外の企画・デザイン制作多数
2017年 オーストラリアで独立
2019年 シンガポール/台湾で12年程、スタートアップ企業と共同プロジェクトやイン・アウトバウンド施策に関わる。クリエイティブチームPolittle Design立ち上げ。
2021年 デザイントースト創業。クリエイターの地位向上・職場環境のアップデート・女性リーダー創出に注力

デザイントーストがどんな経緯でできたか、インタビューさせていただきたいと思います。今日はよろしくお願いします。
はい、よろしくお願いいたします。
女性が、クリエイターが、
自分と同じ苦労をせず、強く幸せに生きるために
まずこの事業を始めることになったきっかけを教えてください。
「デザインにを教えてほしい」と知人に頼まれたのがきっかけでした。卒業時のゴールを考えた時浮かんだのは「苦労をしないためのスキルをつけてほしい」ということでした。
どんな苦労をされたんですか?
今となっては笑い飛ばせますが、鬱になってしまったり、女性ということで仕事を制限されたことでしょうか。
1つめの壁、就職。
鬱になった原因はなんだったんですか?
AM2時からミーティングが始まる肉体的なタフさから、「2時間で200本アイデア出ししろ、下手なものを出すなよ」とパワハラチックなものまで色々原因はありましたね。
今は、そんな状況をどう思いますか?
今なら、入って3日で辞めていると思います(笑)。
長時間労働で、途中できつくなってある日突然こなくなる社員もとても多かったですし、パワハラや精神論を新人が引き継いでしまうのを間近で見た時、私は後輩デザイナーたちに絶対に同じような体験をしてほしくないと思いました。
また、女性がキャリアと出産育児等の人生を両立させることが不可能な環境だったんですよね。これも変えたいなと。
Women's Empowerment
女性たちを応援する理由

よければ、女性ということで苦労されたことも聞きたいです。
"苦労"というのが適切な言葉か分からないですが、例えば、企画案を大量に出したら「女性は花なんだから、いてくれるだけでいいんだよ」と言われたことがありました。
「えっ、仕事を頑張りたくても、女性ということだけでできることを制限されたり、期待すらされないんだ」とその時はちょっとショックを受けて。
飲み会には必ず呼ばれて社長の隣に座らされたり、お客さんにお茶出しはやはり女性じゃないとと言われて、仕事になったら私より経験の浅い男性の方が期待され仕事を任されていたり。もう一人の先輩女性も仕事を頑張ってる姿にすごいなと思っていたのですが、歓迎されていない雰囲気だったり。
多くは、わかりづらいものがほとんどです。海外だとマイクロアグレッションと言われますよね。日本においてはこれを社会全体が許す空気があります。
「たまたま保守的な会社だったんだね、辞めたらいいじゃん」と言われることがあるんですが「たまたま」が多すぎるんで、全然たまたまじゃないんですよね。
実力以前に、性別で仕事を判断されて割り振られてしまったんですね。
もちろん私の感じた経験はほんの一部で、もっと苦労されている方が沢山います。
デザイン業界だけの問題ではなく、世界でも今問題になっている事ですが、とくに日本は女性としてはやはり仕事がやりづらいなと思います。ジェンダーギャップ指数も低いのも納得です。
女性の働きやすさワースト2位とか、聞いたことがあります。
ですね。例えば女性では仕事を続けたくても、育児・出産でキャリア継続を諦めなければならない方も多くいますが、女性だけが諦めないといけないのは不公平ですし。
男女の賃金格差も、男性と同じ仕事をしているのに賃金が違うなんて、おかしい。
聞いた話でも、女の人は家を守るもの、という社会の圧力もまだまだ強いようで。受講生で「お母さんなんだから、子育てを第一にすべき」と会社の男性管理職に言われたとか。
女性管理職も、あまりいないですよね。これから増えるでしょうか?
私、日本で女性のマネジャーさん、今まで数回しか見たことがないんですよね。
オーストラリアの会社で日本支社とミーティングした時は、日本側は全員男性、オーストラリアチームは全員女性でした。
女性の働きやすさの改善は、上層部に女性が増えなければ永遠に変わらないですが、コロナ禍も追い風になり、今後は加速していってほしいなと思います。
デザイナー職って一生働けるし、オンラインでも仕事がしやすい。うちを修了された方は有無を言わさない実力を見せつけ、がんがん活躍してほしいと思っています(笑)
なるほど、それで女性応援をはじめ、エンパワーメント、人権についても力を入れているんですね。
はい。大前提として、誰かが不公平・不利益を被るような格差は存在しない社会を目指したいです。人種・性別問わず誰もが平等であるべきです。女性たちをはじめ、自分が幸せに生きることで、周囲に良い影響を与えることもできます
Become Freelancer
2つめの壁、独立

オーストラリア・シンガポール等でのフリーランス生活は、順調でしたか?
やりがいがあって楽しかったです。同時に、会社に属さないことで課題も沢山見つかりましたね。受講生に「苦労してほしくない」と思うことの2つめです。
どんな課題ですか?
1つめの壁は「発注額が安い」
クラウドソーシング上ではお小遣い稼ぎや、副業で"タダ同然"で受託される方も多い。オンラインは価格破壊がこれ以上ない程進んでいるんですよね。
2つめの壁は「フリーランスは、都合よく扱われることがあり立場が弱い」
例えば、"急に対応が必要になった"と無理な提出期限を出されたり、デザイン費を踏み倒されたり、データを納品した数分後に突然態度が代わって50万円の損害賠償を請求されたり…(笑)
安さが売りでは続かない。どうしたら?
それはまたびっくりですね(笑)また、会社とは違う大変さがありますね…。
はい。体力的にはすごく良かったのですが、経済面で悩みました。
当時はオーストラリアのシドニーで独立して、現地の日系企業を中心に、日本でも後々お仕事をしたのですが、苦戦しましたね。
会社にいた頃、営業さんが頑張って売ってくれていたんだな~と思いました。
「高品質なデザインがあれば、金額は勝手についてくる」と思いこんでいたのですが、反応が良くても、値上げしたらすぐ別のデザイナーに変えられたり。
デザイナーの悩みの種ですね。価値を上げるには、どうしたらいいんでしょう?
正直、今Webスクールから素人さんが大量に輩出され、クラウドソーシングの普及でデザインの市場価値のボトムがこれ以上ない程下がってきています。この状況を今すぐ変えるのは難しい。
ですが、強みを持ち、差別化を図ることでいくらでも戦える。
特にWebスクール量産型の駆け出しデザイナーができていないのは「ビジネス視点をベースに持ちデザインをすること」
Being a Designer
「当たり前」ができることは強み

課題においても、ビジネス目線をベースにデザインをする、と言う感じですか?
そうです。コンペでも、デザインだけ出すと見た目の好みでしか判断されないし、コネがある方が勝ちます。
ですが、これは、デザイナー・ライター・プランナー等クライアントワークである以上、どの業界もそうですが、
「このデザインは、競合を調べ分析しました。こうなのではないかと自分なりの仮説を立てました。なので、このデザインがベストなんです!」と。数学の"証明"みたいな説明ができることを求められます。無機質になれということではなく、この上に情熱を乗っけるというか。
デザインの見た目だけで勝負、ではなく、理論的な説明・言語化力が大切なんですね。
その通りです。欧米圏でも、こうしてデザインの価値を論理的に伝えることをやるのは当たり前で、皆プレゼン当たり前に上手いんですよ。うちのイギリス在住デザイナーの方も「プレゼンできなきゃデザイナーになれないよ」とめちゃくちゃ叩き込まれたそうです。
作家として自分が輝くのではなく、デザインはあくまで何かを輝かせることがお仕事ですから。もちろんアート的表現がモチベーションにある事、トレンドをキャッチする力があることは大事だし、得意なら強みにできると思いますがベースのマインドがアート的ではない。
でも、こうすれば大量生産型のきれいな表層だけをつくるデザイナーとも確実に差別化を図れますし、10年後も見える世界は全く違うものになります。ディレクションも、経営目線も持てるようになります。
なるほど。他には?
あとは「返事をちゃんと返す」「途中で辞めますと言わない」という当たり前のことができる信頼のある人になること!なかなかいないんです。普段正社員としてはしっかり仕事をしても、オンライン・業務委託というだけで、簡単に投げ出してしまう方も多い。
これは、カリキュラムを作る時も「頼むから、私と同じ苦労をしてくれるな!!!」と思いながら熱を入れて作りこんだところです。本当に(笑)
ありがとうございます。
では、最後にデザインを学ぼうと思っている方に、コメントをお願いします。
これは海外などで、主張しないと後回しにされる体験からも学んだことなのですが、例えばクリエイターとして言いなりになることも、女性としての役割を押し付けられ黙って受け入れることは、
「不利な役割を与えてもきっと黙っているだろうから、この人の権利を後回しにしてもいいだろう」と、思われる空気を許してしまう、ということです。
もちろん、変えられない環境もあります。
ただ、クリエイターとしてなら変えることができます。相手に有無を言わせる隙もない実力派デザインスキルと、ビジネススキルを身に着けさえすれば、怖いものはありません。強く生きましょう。
誰もが人としてリスペクトされるべきです。自分に自信を持つために、デザイントーストの卒業生全員に、スキルという武器を身に着けてほしいと思います。そのために、全力でサポートします。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
